私たちホワイトローカスは毎年冬休みと春休みには白馬乗鞍温泉スキー場の側にある白馬山荘に籠って毎日滑り込む.山荘は日本海が近い白馬谷に位置しているため降雪量,雪質ともに最高のスキーライフを送ることができる.山荘生活は基本リフト開始から終了まで滑り込み,滑ることと食うことと寝ることくらいしかないシンプルな生活だ.OBさんが来るとたまに「下界」に降りられるが基本はスキー場の施設と山荘の中で過ごす.ここで明言しておきたいのは山荘と名乗っているけれどインフラは完備されているし,スキー場の宿の並びにあるのですぐに下界に降りることもできる.ただし積雪期は山荘までの道路は除雪されないのでリフト乗り場から歩いて登ってくる必要がある(笑).
ここでは山荘生活とその周りの自然に絞って紹介しようと思う.
山荘生活
〇一日の流れ
7:00 | 起床・朝飯 |
8:00 | 山荘前集合・体操 |
8:30~9:00 | フリー |
9:00~10:30 | 1コマ目 |
10:30~12:00 | 2コマ目 |
12:00~13:30 | 昼飯・昼休憩 |
13:30~15:00 | 3コマ目 |
15:00~16:30 | 4コマ目(大体フリー) |
16:30~ | 山荘前集合・体操 雪かき |
18:00~ | 晩飯 |
19:30頃 | ミーティング |
23:00 | 消灯 |
合宿の日は大体こんなスケジュールだ.合宿期間外は基本的に何時に起きてもいいし何をしても自由.それぞれ順を追って説明していこうと思う.
山荘内の仕事は基本的に一回生が担当し,不在の時は順次回生が低い人たちから仕事が割り当てられる年功序列制度が敷かれている.現役生(B1~B3)→学内OB(B4~M2)→OB(社会人)と年を重ねるごとに偉くなって一回生のときは大変だったが今ではすごい楽させてもらっている.
雪かき
ドカ雪が降った日にはリフトが止まってから晩飯ができる時間まで総出でスコップや除雪機で雪かきだ.ほとんどの人が晩飯前で苛立ってるからその様子を見るのもおもしろい.しかし雪国の人の苦労も分かるがそれ以上に何とも言えない達成感があって楽しい(笑).それなのに19-20シーズンは雪が少なくてまともに雪かきしたのは一日だけで残念だった.そう思っているのはきっと私だけだと思うが…
雪かきは山荘が雪で埋まらないよう,潰れないようにするのが目的だ.そのため範囲は山荘周囲を掘り起こす必要がある.厄介なのが山荘の屋根に積もった雪.屋根雪はストーブの熱がトリガーでたびたび雪崩を起こし,その度雪かきが増えるのは言うまでもない.ちなみに小屋開けの時に来ると山荘がほぼ雪で埋まっていたなんて年もあった(笑)
3月になれば雪かきが必要な日はほとんどなくなり,積もった雪がただただ溶けていくのを見守るだけで何となく悲しい気持ちになる.
余談ではあるが,雪崩に飲まれた人を助けるには15分以内に掘り起こさなければいけないらしい.しかし雪かきを経験して埋まった場所が分かっていても相当厳しい作業であることを実感した.除雪機でさえ意外と体力勝負で仮に雪崩の現場に除雪機があっても時間内に数m掘るのは大変だと思う.
乾燥室
乾燥室では雪が解けて濡れた板やブーツを乾かせる.ストーブが置いてあるのは居間とこの乾燥室だけで,寒いのに山荘に人が多くて火にあたれないときはこの乾燥室に逃げ込めば暖を取れる.
また例年一回生がこの乾燥室でブーツが履けない様を見るのは一つの風物詩となっている(笑).
食事
食事は基本的に朝・昼・晩の三食自分達で自炊する.食材なんかは生協の配達サービスを使って仕入れているが,上でも述べたように,山荘までの道路は除雪されないのでスキースクールに届けてもらいそれを何人かで手分けしてリフトと一緒に載って山荘まで食材を運ぶ.リフトから降りると板を履いたまま段ボールに入った食材を抱えて滑り降りるのだが,ぶちまけて雪の上に食材が散乱した事件なんてのもあった(笑).
料理を作る際には細心の注意が払われる.早く普通の味の料理を出せば咎めるものはいないが,ひとたびおかしなものが提供されると代々語り継がれることとなる.私の経験したヤバかった料理ナンバー1は粘土のようなご飯.どうやって炊いたら白米が粘土のような食感になるのか理解が追い付かなかった(笑).語り継がれた料理でよく聞いたのは三食コロッケだ.油の温度に相当の差があったのか揚げた後のコロッケを見た人が別の料理と思ったほどだという(笑).
朝は卵,ふりかけ,みそ汁,白米と決まっている.しかしすぐに飽きてしまうので各自持ち込んだオリジナルのごはんのお供を仕入れて凌いでいる(笑).そして長野らしく毎食野沢菜も支給されるがあまり現役生は食べないようだ.
昼はどんぶり物.山荘生活が長いとやたらと食う米が多くなって特にこの昼のどんぶりの米は多くなる傾向がある.
更に山荘生活に慣れてくると味見もせずマヨネーズと一味を投下して毎回ほぼ同じ味のどんぶりに変えてしまう始末だ(笑).個人的には買ってきた乾燥にんにくをまぶして毎回次郎を彷彿させる味へと昇華させている.
晩はご飯に主菜と二種類の副菜と果物だ.山荘に調味料は一通り完備されているが何故かできあがる料理は毎回砂糖,醤油,酒,みりんをベースにしたものが多く,山荘にいるせいか濃い味付けの料理が多いのが特徴だ.ちなみに肉は1人あたり昼50g,晩80gと決められていて正直めちゃくちゃ少ない(笑).
皿洗いじゃんけん
決まって晩飯後に勃発する.じゃんけんに負ければ十数人の食器を洗うはめになるが勝ちぬけた人は何とも言えない幸福感を得ることができる.負ければ地獄で山荘のキンキンに冷えた水で洗うはめになる.給湯機もあるものの灯油切れを懸念して台所でのお湯の使用は禁じられているのだ.
コーヒー
山荘には何故かコーヒーを嗜む人が多い.山荘ではやたらと時間がゆっくり流れるので豆から挽くのがちょうどいい.特に食後に手持ち無沙汰にコーヒーミルをゴリゴリと回してコーヒーを淹れる様は山荘の煩雑とした環境にはほど遠い優雅な時間を演出することができる(笑).もはや自己満足の領域だが,ポカポカ陽気のテラスでコーヒーをすすることで究極の満足感を得ることができるのだ(笑).
風呂
風呂を如何にして早く入るか.それが寝るまでの快適さを左右する.例外なく風呂にも年功序列で年を重ねた人ほど早く入ることができ,当然一回生は一番後になる.何せ風呂に入れないとしんどくても寝れないのだ(笑).しかし最近は本来一人で入る風呂を先輩や同期に懇願して一緒に入れてもらうことで圧倒的時短を狙う戦略が流行っている(笑).これは私が一回生のときに考案し,結果として流行ったのだが,このシステムのお陰でかなり全体の入浴時間は早くなった.
ワックスがけ
疲れてボロボロになった体に鞭打ってやるのが板のワックスがけ.毎日やるのがセオリーだけど毎日素人がワックスがけしていると滑走面が熱で焼けてしまったりして弊害も少なくないらしい.それを理由に私は板が滑らなくなったらワックスをかけるということを繰り返すようになってしまった.意外とワックスがけを毎日しなくても滑らなくて困るということはないというのも実情だ(笑).しかし定期的に手入れは必要なので3~4日を目安にしようと思う.
寝床
山荘では川の字になって者どもがひしめき合いながら寝る.パーソナルスペースは布団一枚分だ.人が多いと計30人近くも寝るので荷物とか着替えで寝室はぐちゃぐちゃ.最悪なのはカメムシだ.油断すると自分の洗濯物とか布団に張り付いて駆除に失敗すると強烈な残り香を放つ.山荘では至る所にガムテープが常備されているためカメムシは発見次第ガムテープで張り付けてゴミ箱に投入するのが暗黙の了解になっている.しかしまれに弾き飛ばして解決しようとする人もいるので油断ならない(笑).
疲れ果てて自分の布団に寝転がるも時間はまだ21:00だったりする.いくら疲れていても毎日寝すぎると逆にしんどいので寝る時間をしっかり調整してあげるのは重要だ(笑).晩にコーヒーを飲んであえて時間調整を図る人もいるくらいだ(笑).
ちなみに夜中もストーブを焚いているので三階のロフト部分で寝る人は雪の降る寒い日でも半袖で寝られるほど暖かくなる.
オンシーズン
山荘生活は自然とともに生活しているからか下界よりも季節の移り変わりが肌で感じられるのも良いところだ.冬休みに入ってすぐ小屋に入ると本格的な小屋籠りがスタートする.例年ハクノリには11月末頃から雪が薄っすら積もり始めるが,19-20シーズンは周期的に来る暖冬で衝撃的なほど雪が少なくて雪が降り始めたのは冬休みに入った12月末と辛いシーズンもあった.
なんとかコースがオープンしてもブッシュだらけでまともには滑れなかった(笑).ちなみに17-18シーズンは大量の雪に恵まれて快適スキーライフができたし,18-19シーズンは暖冬と言われていたものの滑るには困らないくらいには雪はあった.
年末からしばらくは基本的に雪か曇りの日しかない.たまに晴れてくれると澄み渡った青空と白い衣をまとった北アルプスを眺めることができる.山荘からは鹿島槍ヶ岳の猫耳と遠見尾根が見えていて晴れた日にはその雄姿を写真に収めるのもまた楽しみの一つだ.
4線(ハイウェイコース)や5線(スカイビューゲレンデ)の頂上からはハクノリ随一の展望が広がるオススメのポイントだ.白馬谷や後立山連峰を一望できることはもちろん,北の方に目をやると妙高山,火打山,高妻山なんかも見えている.
春休みに入ると再び合宿が始まる.朝から夕方まで比較的安定した雪質なのは2月の中旬くらいまで.朝一,ピシッと圧雪された縞々バーン(通称,ゴールデンバーン)やふわっふわっパウダーにまみれることができるのは1~2月のこの時期ならでは.
特にパウダーは朝一のリフト開店凸を逃すと食われまくってボコボコになってしまう.パウダーが降った翌日には5線の未圧雪パウダーを求めて外人ボーダーやスキーヤーで長蛇の列ができるほどだ.
2月の末頃になるとポカポカ陽気の日も増えてくる.そんな日にはテラスで飯を食うのが気持ち良くてしょうがない.それと同時に雪質も春雪へと変わっていく.そういう季節の変わり目には決まって雨が降ったりする.
3月にもなるとかなり気温も高くなり,勝負は朝一数本のみとなる.朝方しまった雪面も2~3本回す頃には緩み始め,昼前,下手すると10:00頃にはザクザク,シャバシャバの雪に変わってしまう.日によっては雪面の温度差にむらがあることで生じるストップ雪(界隈では妖怪板掴みとか言うらしい)へと変貌してしまう.そうなるとまともに滑れないし,第一滑っていて楽しくない.
そんな春にこそ楽しめるのがコブ.ハイシーズンでカチカチだったコブも春になれば柔らかくなって劇的に滑りやすくなる.者どもは我こそはコブおじさんと名乗りを上げてコブループに興じる.爆ゴケで大回転したり,板が反ったりしたりするハプニングすら楽しい.
日中柔らかかったザクザクだった雪も日が落ち始める14:30頃から徐々に山々の陰が雪面を覆い始め,急速にカチカチになり始める.そうなると荒れたままの雪面がそのまま固まってしまい,リフト終了間際にもなればその様は地獄と化す.日によってはじゃがいものような雪玉が散乱するじゃがいも畑になることもある(笑).
加えて 3月は陽気や雪質だけでなく生き物が動き始める季節でもある.スギ花粉が飛び始め,カメムシが乱舞し,キツツキが山荘の壁に穴を開けに来る.山荘から下界に帰る頃にもなれば街ではすでに桜が咲いているなんてこともしばしば.
グリーンシーズン
夏休みに入り夏合宿で久々に山荘へメンテナンスに訪れると,冬に悠々と滑っていた斜面一体が緑に覆われて牛が放たれて牧歌的な高原の空気が流れていて驚く.もちろん山荘周りも草だらけだ.快適な作業を行うため初日に草刈りをするのは夏合宿の恒例行事となっている.
明らかに山荘は下界とは違って涼しく,朝晩は肌寒く感じるほどだ.この空気感を味わうだけでも山荘に足を運んでもいい程.
もちろん昆虫や哺乳類は山荘内でうごめきまくっている.シーズン終わりに仕掛けていったゴキブリホイホイを覗いてみると,ゴキブリはもちろんだがネズミやカマドウマがびっしり付いていておぞましい.特に私はゴキブリやネズミなんかより山荘の水回りでよく出現するカマドウマが嫌いだ.普通のバッタは特に何も思わないがこいつは筋骨隆々のたくましい足でしきりに飛び跳ねて目障りで仕方がない.そのため夏の山荘ではあちこちに殺虫スプレーが常備されていて虫が出るたびに逐一駆除に駆り出される.しかしこいつらはまだ可愛い方で,外で作業してると寄ってくるアブやハチなんかには辟易している.
特にスズメバチはキツツキが山荘に開けていった穴に巣を作って作業がままならない.アシナガバチは山荘のひさしに巣がぶら下がっているだけなので比較的巣を落とすのは簡単だが,スズメバチはそうもいかずカッパやヘルメットなんかを(気休めではあるが)着込んで開いた穴を木の端材で塞ぐ.二人一組で一人は殺虫スプレーを両手に持って援護してくれるとはいえ,これが怖くて怖くて仕方がない.
虫の駆除以外にも山荘内の掃除や整理をはじめ,山荘の外壁に防腐剤を塗ったり,布団や畳を干したり,足りない備品の買い足しておくことが冬を快適に過ごすためにしておかなければならない仕事だ.これで心配せずにまた次のシーズンへ臨むことができる.これからもずっと愛すべき山荘ライフを大切にしていきたい.
終わり
そのうちハクノリ滞在レポート・スキー編も書きます.乞うご期待!