2023.3.5(日)
未明.犬たちがキャンキャン,ワンワン吠えまくっている.こんな標高にもワンカスがいるのか…昼間は死んだように寝ているがその分夜は元気なのだろう.うるさくて仕方がない.イヤホンを装着してどうにかもうひと眠りした,そんな夜だった.
今日も一日が始まる.毎日長い時間横になっているので肉体的な疲労はないのだが軟便なのは変わらないし,相変わらず咳と鼻水は収まってはいない.挙句の果てには唇が乾燥と日焼けでバリバリになってしまった.口を大きく開こうとしてもかさぶたが剥がれるような痛みがあるし,食事になるとその傷が沁みる.リップクリームを持ってきたら良かったと死ぬほど後悔した.高所で生きるのは大変だ…
また晩に降雪があったらしく外の様子を見ると辺りは真っ白だった.まるで極地のような様相である.というか私は極地にいるのだ!雪は深いところで5cm程度.太陽が出るとすぐに溶けるだろう.
朝食を食べ,宿を出ると珍しく今日は多くのパーティーが先行している.歩き始めるとすぐに大きい方の波動を感じた.これはマズイ.中途半端に何人か抜かしてしまった.ともかく先頭の外人たちを全員抜かして大差を付けてから岩陰で速攻で致すしかない.どうにか大きい方は間に合ったが,トレースから外れた不自然な踏み跡を作ってしまった.これは恥ずかしい…
LobucheからEBC最後の村・Gorakshep(5140m)への道のりは意外と標高差もなく近いと感じた.モレーンの側のトレイルをひたすら北上し,右手には昨日横断したKhumbu Glacierの氷河が見えている.北上するにつれてこの氷河も土砂の山より氷の要素が多くなってきた.
Gorakshepの手前でChangri Nup GlacierとChangri Shar Glacierの二つの氷河を横断.普段できない氷河歩きを出来るのもこの山域の醍醐味の一つだろう.
EBC(5364m)やKala Patthar(5643m)へ行くにはLobucheを往復するケースも多いようだが,最後の拠点としてGorakshepの宿を使った方が便利だ.時刻はまだ9時であったがロッジを覗いて今夜の宿を抑えてしまおう.部屋は意外と残っていたので早い時間だったがすんなりと入れてもらえた.良かった.これで軽荷で行動できる.まずはEBCへ向けて出発だ.
Gorakshepには多くのパーティーがいたがどうやら下りのようでEBC方面へ向かうパーティーはいない.やった!貸し切りのトレイルだ.ずっとモレーンのトレイルだったがEBCに近づくにつれ氷河との距離は近くなり,気分も最高潮に上がってきた.長い間行きたくて行きたくて仕方がなかった場所を今まさに歩いているのだ!今興奮しないでいつ興奮する?!
そして遂にEBCに到着.トレイルの終着点であり,エベレストへ向かう拠点でもある.こんなに浪漫あふれる場所は世界広しと言えどもそう中々ない.持ってきた三脚をセットし,スマホとカメラを繋いでいい感じの画角で自撮りを決めた.この写真が撮りたかったのよ.遥々Jiriから歩いてきた甲斐があったというものだ.そして山旅も佳境を迎えてしまい,同時に寂しい思いも感じた.もうこのハイライトの気分を味わえるのは今日この日しかないのだ.
しかしこの有名な岩からはテントは見えない.シーズンではないかもしれないが何張かでも実際に遠征隊が在中しているのも見てみたい.そう思い岩の奥に進んでみることにした.岩の奥は高さ5m程度の砂利山がポコポコしておりその間を自由に進む.するとテントが何張か見えてきたではないか!おお~~!テントの中では紅茶タイムを楽しむおじさん達がいた(笑).なんと羨ましい.時間とお金が許しさえすれば私も是非とも登ってみたい.
エベレストのC1へ向かう第一の難所はクレバスだらけの氷河をよじ登っていくことで有名だ.どこがルートなのかはイマイチ分からなかったがその雰囲気も感じ取ることができた.なるほど.いつ崩れてもおかしくないような氷河の段丘がゴツゴツと奥へ奥へと続いている.こんな所を登って行くのか.
ここに来るまで知らなかったのだが,EBC周辺から肝心のエベレストはちらっとしか見えていない.これは意外にも程がある.あまりゆっくりしすぎてもガスに飲まれてしまうので,さっさとエベレスト本体を見にKala Pattharへ行こう.Kala Pattharはこの旅の最高標高到達点でもある. 行ってやろうじゃないか!
一般的な地図を見るとKala Pattharは一度Gorakshepへ戻らないといけないような雰囲気だが,Kala Patthar自体はただのなだらかな丘なのでモレーンのトレイルの途中からいい感じの地形を選んで登り始める.ショートカットというやつだ.この時点でちょうど正午となり少しお腹も空いてきたので下界で買ってきたチョコバーを補給した.
登り始めて思ったのが,景色が想像以上に変わらない!しかしエベレストは確実に大きく見えるようになってきた.素晴らしい…今日は珍しく昼を過ぎてもガスが湧いてこない.いい子だ.そのままもっていてくれ…と祈りながら登る.
牛歩で少しずつ距離を詰め頂上に到達.山頂は汚いタルチョの束があるもののそれ以外何もないただの岩山だ.山頂碑もないし記念写真を撮るような感じでもなかったが,撮りたいのはその反対側の展望.ほぼ360°の圧倒的なマウンテンビュー.世界の名だたる山の詰め合わせを一気に見せられて,脳の処理が全く追い付かない.とんでもない所に来てしまった.EBCも良かったがKala Pattharもまた素晴らしい.もう死んでも悔いはないくらいだ.
さあ,満足したので帰りましょう.Gorakshepまでは目と鼻の先だ.下りは何と楽なことか.Lobuche泊にしなくて本当に良かった.Gorakshep泊だと精神的に相当余裕がある.
Gorakshepに帰ったのは14時くらいだったが山はガスに飲まれていない.一度部屋で体を拭いたり写真を移したりして日課をこなし,外で散歩をすることにした.Gorakshepはモレーンの淵に立っている村で,少し歩くと崖でストーンと切れ落ちている.崖の淵に立つとKhumbu氷河やNuptseが正面に見える.あまりにも景色が良くしばらく立ち尽くしていた.
一方で崖の近くにはゴミが山積している場所もあったりして少し悲しかった.トレッキングや遠征登山で出たゴミが下界に降ろされず横たわっているのを見ると,つくづくトレッキングは自然に対して負荷を与えて傲慢な行いなのだと考えさせられた.最高の山並みと人作ったゴミの山.皮肉にも上手く対比された光景なのであった…
宿に帰り,薪ストーブの前で晩飯前に暖を取っているとなんとポップコーンのサービス.無言で差し出され,有料か?と思ったが無料のようで有難く頂くことに.仮にお金を請求されても大した額ではない.こうなると欲しくなるのはコーラである.なんと標高5140mではコーラはRs600!心地よいサービスを受けたしここは課金すべき所.多少高かったがこの標高のコーラは格別だった.
今日もダルバートを食い,心地良い眠りにつくのであった.と思っていたがこの日の晩も下痢で何度もトイレへ通った(笑).
目次
今日の収支
※Rs1はほぼ1円
・宿(Gorakshep Yeti Resort):Rs500
・ミルクティー:Rs250
・晩飯(ダルバート):Rs1000
・コーラ:Rs600
・ミルクティー:Rs250
・シェルパシチュー:Rs850
∑ Rs3450
行動記録
6:00 朝食
9:00 Gorakshep
10:15 EBC
13:20 Kala Patthar
14:00 Gorakshep着
18:00 晩飯
終わり
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